SNSなどオンラインサービスを利用しているユーザーなら、一度は目にする「アテンションエコノミー」。言葉は知っていても、その意味や問題点を理解している人は少ないのではないでしょうか。
本記事では、「アテンションエコノミー」が注目される理由やSNS利用時の対策について解説しています。
目次
アテンションエコノミーとは
アテンションエコノミー(注意経済・関心経済、英: attention economy)は、人々の「注目・関心」を資源として扱う経済学の概念です。
アテンションエコノミーの概念自体は、1969年にはすでに経済学者のハーバート・サイモンが提唱していました。サイモンは情報過多時代を予測し、人々の「注目・関心」が重要になると指摘しています。その後、1997年に社会学者のマイケル・ゴールドハーバーがアテンションエコノミーを体系化しました。
アテンションエコノミーにおいて、SNSを利用するユーザーのスクロールや、動画を視聴する時間は、すべて経済的価値を持ちます。結果、オンライン広告やSNSを運営する企業は、ユーザーの「クリック」や「視聴時間」を通じて巨大な利益を生み出すようになりました。
アテンションエコノミーが注目される理由
ネット社会を生きる現代人が1日に接する情報量は、20年前の約100倍に達しています。大量の情報がある中、いかに人の「注目・関心」を集められるかが、ビジネスの成功に直結するようになりました。
現在は、より多くのユーザーに注目され、他社よりも多くのフォロワーを集めた企業が、広告収入やサービス・商品の販売で優位に立てるビジネス環境が続いています。
「バズる」といった言葉が流行しているように、収益を目的としない一般ユーザーが注目度の高い投稿を行うようにもなりました。他者の関心を集める行為が「価値」として認知されています。
ビジネスにおける価値基準の変化はもちろん「承認欲求」による個人ユーザーの行動の変化も、アテンションエコノミーへの注目を加速させた要因でしょう。
アテンションエコノミーの4つの問題点
とくにSNSなどのオンラインサービスにおいて問題視されているアテンションエコノミー。
SNSなどのオンラインサービスは、ユーザー同士が評価し合えたり、依存性を高める仕組みが取り入れており、「注目・関心」を集める設計になっています。
アテンションエコノミーには、具体的にどのような問題点があるのでしょうか。
- 情報の質が低下する
- メンタルへの悪影響がある
- SNSへの依存を強める
- 社会の分断を広げる
ここでは、上記4つの問題点について解説します。
情報の質が低下する
アテンションエコノミーでは、ユーザーの「注目・関心」を集める情報発信が優先されます。SNSやネットメディアでは「バズる」を狙った、ユーザーを煽るような過激な投稿が多いのは周知のとおりです。
たとえば「10秒で分かる〇〇」「驚きの事実」といった見出しや、著名人のゴシップやデマなどの情報です。過激な表現・情報はユーザーの興味を引きますが、一方で深い洞察や正確な情報が埋もれる危険性があります。
また、クリック数や共有数の多い情報を優先的に表示するアルゴリズムによって、事実確認が不十分な情報や意図的に歪められた情報が拡散されるケースも少なくありません。
メンタルへの悪影響がある
SNSなど多くのオンラインサービスは、ユーザー同士が評価し合える仕組みになっています。自己評価に直結するいいね数やフォロワー数などは、承認欲求を過剰に刺激したり、不安を引き起こすなど、ユーザーのメンタルに悪影響を及ぼしています。
また、運営側のユーザーデータ収集により、スマートフォンに次々と表示される広告や類似情報は、ユーザーの注意を終始引きつけている状態です。必要としない情報に心を奪われてしまう状態も、改善すべき課題の一つでしょう。
こうしたアテンションエコノミーがもたらすメンタルへの悪影響は、ユーザーの生活の質を低下させ、仕事の生産性の低下や創造性の阻害につながると指摘されています。
SNSへの依存を強める
投稿やいいねなどポジティブな反応が返ってくると、ユーザーの脳内でドーパミンが分泌され、この時の快感がSNSへの依存を強めます。
無限にスクロールできる機能や通知を知らせるシステムは、ユーザーの時間と意識を奪えるよう最適化されています。次の情報が気になってスクロールしたり、通知でSNSを開いたりした経験は誰にでもあるでしょう。
他のユーザーがどんな投稿をしたのか気になる状態も、依存に関係しています。人間は社会的な生き物であるため、他者との比較は避けられません。簡単に他者の日常や意見が見れてしまうSNSで比較対象を探してしまうのは人間の習性なのです。
社会の分断を広げる
人々の「注目・関心」を集めるために、アテンションエコノミーでは感情に訴えかける情報が優先的に発信されます。とくにSNSでは、怒りや共感といった感情的な反応を引き起こす情報が拡散されやすく、冷静な議論や対話を妨げる大きな要因となっています。
たとえば、政治的な対立を煽る情報、成功や悲劇を扱った情報などです。こうした情報は共感を得られる一方、特定のユーザーの怒りや反発を引き起こします。他にも、人権や環境問題を扱ったものや差別的な情報も、ネガティブな反応を引き起こしやすいでしょう。
また、ネット上には人々の「注目・関心」を集めるための意図的に作られたデマも蔓延しています。このようなデマに関しても、社会の不安や対立を助長し、人々の間に深い溝を生み出している側面があります。
アテンションエコノミーへの4つの対策
複数の問題点があるアテンションエコノミーですが、ユーザー側でできる対策には、どんなものがあるのでしょうか。
- 情報をフィルタリングする
- 利用時間を制限する
- オフラインのつながりを持つ
- マインドフルネスを実践する
ここでは、上記5つの対策について紹介します。
情報をフィルタリングする
まず必要なのが情報源の選定です。インターネット上で信頼できるメディアやSNSアカウントを厳選し、必要な情報だけをピックアップして情報をフィルタリングしましょう。
また、情報の見極めも重要です。とくにユーザーの「注目・関心」を引くためのネガティブな情報は、メンタルに悪影響な内容も多いので、不用意に見ないようにしましょう。
「注目・関心」を引くためのネガティブな情報とは、下記のような情報です。
- 極端、もしくは刺激的な見出しの情報
- ユーザー同士の対立を煽る情報
- 著名人のゴシップ
- 差別的な内容を含めた情報
- 誹謗中傷
オンラインサービスによっては、ブロック機能や非表示機能もありますので、必要に応じて活用するようにしましょう。
利用時間を制限する
時間の使い方を意識してオンラインサービスを利用する癖を付けましょう。例えば、1日のうち特定の時間帯だけをネット利用に充てるといった習慣づけです。不要な通知はオフにし、ついオンラインサービスを開いてしまう状況を作らないようにします。
利用時間を制限するにあたって必要なのが、自分がどれだけSNSなどのオンラインサービスを利用しているか知ることです。その際に有効なのが、スマートフォンに搭載された画面の表示時間の管理機能の活用です。
iOSなら「スクリーンタイム」、Androidは「デジタルウェルビーイング」がそれぞれ該当します。この2つの機能はアプリごとの利用時間を可視化してくれます。自分がどれくらいオンラインサービスを利用しているか客観的に把握できますので、ぜひ活用しましょう。
オフラインのつながりを持つ
オフラインで人とのつながりを持つと、アテンションエコノミーから受ける影響を小さくできます。オフライン上の人間関係に時間を使えば、SNSなどのオンラインサービスを利用する頻度が減るためです。
たとえば、趣味に関するコミュニティに参加したり、地域のお祭りやイベントなどに参加するなどの方法があります。友人や知人と積極的に会ったり、近所の人と交流を深めるのも良い方法でしょう。
仕事においてもオフラインのつながりを持てます。対面でのミーティングを取り入れたり、出勤前や退社後に同僚とスポーツなどを楽しむ機会を作るやり方も有効です。
生身の人間からしか受け取れない温かみや親密なつながりを感じられる「オフラインでの人との交流」は、メンタルにも良い影響があります。
マインドフルネスを実践する
マインドフルネスは、アテンションエコノミーによる注意力の分散やメンタルの落ち込みへの有効な対処法です。「今、この瞬間」に意識を向け、内側から心の安定を取り戻します。
マインドフルネスでとくにおすすめの方法は、呼吸に意識的に注目する瞑想です。呼吸瞑想と呼ばれ、1日5分からでも実践できます。
やり方はシンプルで、まずはあぐらをかいて目を閉じ、手を膝の上に置いて呼吸に注目しましょう。ゆっくりと鼻から息を吸い込み、口から息を吐きます。吸う息は4秒、吐く息は8秒を目安にします。
この時、何か考えやイメージが浮かんだら、その状態を自覚し、再び呼吸に意識を戻します。考えやイメージを無理に抑え込む必要はありません。考えやイメージが浮かんだら「あ、考えてる」と自覚し、淡々と呼吸に意識を戻しましょう。
呼吸瞑想は1日5分でも良いので、空いた時間などに行うと心が安定してきます。
また、注目する対象は呼吸である必要はなく、日常生活の動作(掃除、洗濯など)に注目する方法もあります。こちらも呼吸瞑想と同じく、何か考えやイメージが浮かんだらその状態を自覚し、動作に意識を戻します。
SNSは上手に距離を取って健全に利用しよう
アテンションエコノミーは新しいビジネスとして、多くのユーザーを集客し、商品・サービスを提供できるメリットがあります。一方で、「注目・関心」の獲得に注力するあまり、情報の質が低下したり、ユーザーのメンタルに悪影響を及ぼすといったデメリットもあります。
残念ながら、SNSをはじめとするオンラインサービスからアテンションエコノミーは無くせません。それぞれのユーザーがアテンションエコノミーへの理解を深め、リテラシーを持ってオンラインサービスを利用するよう心がけましょう。